主な生態

イヌワシはペアごとにテリトリー(なわばり)を持ち、1年を通してその中で生活しています。ペアのテリトリーの広さは地域や環境によって異なりますが、平均で約60平方キロメートルになります。

秋も深まる頃、テリトリー内でペアのディスプレイ飛行が見られるようになると、繁殖活動の始まりです。岩棚に木の枝を積み重ねた巣を作りますが、何十年も繰り返し使われてきたものになると、巣の直径や高さが数mになるものが見られます。また、地域によっては岩棚でなく樹上に巣を構えるペアもいます。

寒さ厳しい厳冬期に産卵し、抱卵期間は平均で42日前後で、主に雌が抱卵を行います。雄は雌に餌を運んできたり、時々雌と抱卵を交替します。卵は数日間隔で2つ産みますが、主に餌不足が原因と考えられる兄弟闘争によって、2羽目が生育して巣立つのは希です。

雛が孵るのは里で桜が咲く頃です。最初のうちは雌が付きっきりで雄の運ぶ餌を給餌しますが、半月も過ぎるとペアで餌を狩りに出掛けるようになります。餌動物はノウサギやテンなどの中小型ほ乳動物、それにヤマドリなど比較的大型の鳥類を狩ります。やがて季節が進み木々が展葉してくると、餌動物はアオダイショウなどヘビが多くなります。最初は親から給餌してもらっていた雛も、この頃になると自分で餌を食べるようになります。

餌事情によって地域で差がありますが、ふ化してから概ね80〜90日前後の梅雨時に巣立ちを迎えます。巣立ち後しばらくは巣の近くに留まり、親から餌を運んでもらって過ごしますが、盛夏を迎える頃には親のテリトリー内を自由に飛び回るようになります。親と一緒に行動し、狩りの方法などを学ぶのもこの頃です。

再び季節が巡って秋。親が次の繁殖行動に入る頃、巣立った幼鳥は親のテリトリーから追い出されます。育った場所を離れ、幼鳥がどこへ分散していくのかはまだはっきりとは判っていません。成鳥になるまでには5年以上掛かりますが、それまでに半数以上が落鳥すると言われており、次世代を育むイヌワシが生き残るのは容易ではありません。

参考:幼鳥の分散調査