イヌワシについて

プロフィール

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学名Aquila chrysaetos japonica
英名Japanese Golden Eagle
和名ニホンイヌワシ(狗鷲、犬鷲)
生息地北海道、本州、四国、九州の島峭部を除く山岳地域
行動圏21-237平方キロ(平均 61平方キロ)
大きさ体長:75-85cm、翼開長:175-200cm、体重:3-5kg
食性ノウサギ、ヤマドリ、ヘビ、キツネ、テンなど
繁殖期2月頃産卵、通常2羽ふ化するがほとんどは1羽のみ5~6月頃に巣立つ

イヌワシは1950年代までは日本アルプスなど極く限られた場所にだけ生息するものと考えられていましたが、 近年の当研究会などの調査により日本各地に生息していることがわかってきました。

現在、日本におけるイヌワシの推定生息数は、 150~200ペア(推定未登録ペアを含む)と単独個体を合わせた約500羽と言われています。 しかも多くの生息地は近年の大規模な開発、森林伐採、単一樹種による大規模な植林などにより大きく変化してきています。 そのためイヌワシの食物となる動物であるノウサギやヤマドリの減少を招きました。 さらに密猟や環境汚染物質の影響などによって、イヌワシは絶滅の危機に追いつめられています。

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生息分布

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日本のイヌワシは北海道から九州の山岳地帯に生息しています。

北海道は1994年の当会合同調査において、日本で初めて繁殖個体群の存在が明らかになりましたが、具体的な生息数などはまだよくわかっていません。四国は過去に生息の記録はありますが、近年はその存在が確認されていません。中国地方は東部で繁殖しているペアがいますが、西部では近年の繁殖記録はありません。九州は現在1ペアしか確認されておらず、繁殖行動は観察されますが、近年まったく幼鳥が巣立っていません。

比較的生息数も多く、繁殖状況も安定していると思われていた中部山岳地帯以北でも、餌不足や開発など人為的な影響などによって徐々に生息域が狭まってきています。

参考:H16年 環境省・希少猛禽類調査(イヌワシ・クマタカ)の結果について

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主な生態

イヌワシはペアごとにテリトリー(なわばり)を持ち、1年を通してその中で生活しています。ペアのテリトリーの広さは地域や環境によって異なりますが、平均で約60平方キロメートルになります。

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秋も深まる頃、テリトリー内でペアのディスプレイ飛行が見られるようになると、繁殖活動の始まりです。岩棚に木の枝を積み重ねた巣を作りますが、何十年も繰り返し使われてきたものになると、巣の直径や高さが数mになるものが見られます。また、地域によっては岩棚でなく樹上に巣を構えるペアもいます。

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寒さ厳しい厳冬期に産卵し、抱卵期間は平均で42日前後で、主に雌が抱卵を行います。雄は雌に餌を運んできたり、時々雌と抱卵を交替します。卵は数日間隔で2つ産みますが、主に餌不足が原因と考えられる兄弟闘争によって、2羽目が生育して巣立つのは希です。

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雛が孵るのは里で桜が咲く頃です。最初のうちは雌が付きっきりで雄の運ぶ餌を給餌しますが、半月も過ぎるとペアで餌を狩りに出掛けるようになります。餌動物はノウサギやテンなどの中小型ほ乳動物、それにヤマドリなど比較的大型の鳥類を狩ります。やがて季節が進み木々が展葉してくると、餌動物はアオダイショウなどヘビが多くなります。最初は親から給餌してもらっていた雛も、この頃になると自分で餌を食べるようになります。

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餌事情によって地域で差がありますが、ふ化してから概ね80〜90日前後の梅雨時に巣立ちを迎えます。巣立ち後しばらくは巣の近くに留まり、親から餌を運んでもらって過ごしますが、盛夏を迎える頃には親のテリトリー内を自由に飛び回るようになります。親と一緒に行動し、狩りの方法などを学ぶのもこの頃です。

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再び季節が巡って秋。親が次の繁殖行動に入る頃、巣立った幼鳥は親のテリトリーから追い出されます。育った場所を離れ、幼鳥がどこへ分散していくのかはまだはっきりとは判っていません。成鳥になるまでには5年以上掛かりますが、それまでに半数以上が落鳥すると言われており、次世代を育むイヌワシが生き残るのは容易ではありません。

参考:幼鳥の分散調査

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名前の由来

イヌワシという名前の由来には諸説があります。 生きものの名前を冠に付けるのにはそれなりに理由はあるようですが、 今のところ以下のような説が挙げられます。

  • 天狗のモデルがイヌワシ説。和名では狗鷲と表記する。
  • 「いぬ」はより下を意味するものであり、より大きい大鷲(オオワシ)などに比べて下の意味で付いた。
  • 逆に「いぬ」は大きいものを現す言葉であり、大きい鷲という意味で付いた。
  • 鳴き声がイヌのようだから。→幼鳥の鳴き声♪

さて、名前の由来について皆さんはどう思われたでしょうか。

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人との関わり

イヌワシは勇壮で力強く、孤高かつその美しい姿のために、古くはローマ時代から権力の象徴として王家の紋章や部族のシンボルとして広く用いられてきました。

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大きなくちばしを思わせる突き出た鼻、かぎ爪のような高下駄、翼のように大風を起こすと言われる大型の羽うちわ。それに普段は深山幽谷に棲み、時々里へ下りてくるなど、日本の天狗の風体はイヌワシの特徴に符合するもが多々あります。これら日本各地に伝わる天狗伝説は、山里に生きる人々が自然界への畏怖心から創り出したものであると考えられています。したがって古くからイヌワシと人との交流があったことがうかがわれます。

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古くは国の天然記念物、近年は国内希少野生動植物種(国内で絶滅のおそれのある種)、レッドデータブック絶滅危惧ⅠB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種)などに指定され、法律上では保護されている鳥ですが、その生息地の保護は依然として進んでいません。

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世界の生息分布

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イヌワシは北半球を中心に5亜種が生息していることが知られており、その多くはステップやツンドラ、それに森林限界付近など開けた地域に見られます。日本に生息するイヌワシは5亜種のなかでは最も小型で、日本列島のような温暖多湿な森林に覆われた地域で生活する、世界的に見れば貴重な亜種と言えます。

  • Aquila chrysaetos chrysaetos イギリス北部からスカンジナビア半島、ロシア西部に生息する亜種
  • Aquila chrysaetos homeryi 地中海沿岸周辺の亜種
  • Aquila chrysaetos daphanea 最も大型のヒマラヤ、中央アジア周辺の亜種
  • Aquila chrysaetos canadensis 北アメリカおよびロシア東部の亜種
  • Aquila chrysaetos japonica 最も小型である日本と朝鮮半島の亜種

参考:世界のイヌワシ

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繁殖成功率の低下

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日本イヌワシ研究会では1981年の設立以来、 毎年全国のイヌワシの生息状況や繁殖状況を調査してきました。

繁殖成功率(巣立ちまでいったペア数/調査ペア数)は年々下がってきています。特に1991年以降の落ち込みがひどく、ほとんどが20%台になっています。1997年には16%台にまで落ち込み、その後1999年と2001年、そして2003年には30%前後に回復しましたが、 2000年には一時14%台にまで落ち込みました。

最新の集計(2015年)によれば、ここ5年の繁殖成功率は 2009年が27.0%、2010年が24.6%、2011年が12.9%、2012年が21.9%、2013年が20.2%となっています(以上消滅した99ペアは含まず)。

参考:事業報告 > 生息・繁殖状況調査報告

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ペア数の減少

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1981年の調査開始時は、135ペアのモニターから始まりました。

2013年現在は308ペアを把握し、登録しています。登録ペアの他に、会員が目撃または生息推定しているペアが全国で32ペアと報告されていることから、国内のイヌワシのペア数(生息地の数)は340程度と考えられます(未登録ペアは最大でも40ペア程度と考えています)。

ところが、 1981年に生息繁殖状況調査を開始して以来、1986年に1ペアが生息地から消滅したこと(新規ペアとの交代なし)が初めて確認され、10年後の1996年には消滅数は10ペアとなりました。

さらに20年後の2006年には47ペア、 2013年には99ペアと消滅数は急激に増加しました。2013年現在の有効ペア数は241ペアであることから、約1/3の生息地においてペアが消滅したことになります。

すなわち、ペアの消滅がはじめて確認された1986年以前のペア数340を100%とした場合、現在のペア残存率は70.9%となり(ペア総数の3割も減少)、これらの数値は日本のイヌワシが依然絶滅の危機にあることを物語っています。

参考:事業報告 > 生息・繁殖状況調査報告

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個体数減少の要因

これまでの日本イヌワシ研究会等の調査によって、日本に生息するイヌワシの減少の要因は次のように考えられています。

  • 餌不足
    1. ノウサギ・ヤマドリなどの減少
  • 生息環境の悪化
    1. ダムや高圧送電線の鉄塔、大規模林道などの奥山開発
    2. スキー場を始めとする大型リゾート開発
    3. 無作為な拡大造林の推進
    4. 生息地近くのスキー場の騒音
    5. 資源調査や観光目的、それに山岳救助ヘリによる騒音
  • 狩場環境の減少
    1. 落葉しない単一樹種による人工林の増加
    2. 薪炭林や茅葺き用の茅場の減少
    3. 登山など主稜線部での人間活動の増加

戦後の拡大造林事業で、日本列島は低山帯を中心に杉や檜の人工林で覆われました。草地や伐採地のような開けた空間を好んで狩りをするイヌワシにとって、冬季でも落葉しない針葉樹に山野を覆われることは、狩りの成功率の低下の原因になっています。

また、コストの安い輸入材に押されて国内の林業が衰退、併せてエネルギー事情の変化に伴い薪の需要が減ったことや、茅葺きが必要とされなくなったことなどが影響し、増えすぎた人工林の更新や手入れが行われなくなりました。これらはイヌワシの狩場を奪うことに直結し、彼らの餌不足に陥る最大の要因となっています。

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保護の必要性

なぜイヌワシの保護が必要なのでしょうか?

自然界の生態系のバランスは様々な生物が生息してはじめて保たれます。 イヌワシはクマタカなどと共にその分布域の森林生態系における食物連鎖の頂点に立ち、 生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たしています。

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言い換えるとイヌワシが生息できる森林は豊かで生態系のバランスのとれた環境であるのです。 地球環境全体を見つめ、人類の将来を考えると、 イヌワシを含む野生動物をその生息環境と共に守っていくことは私たちにとっても大切なことです。

イヌワシは国民共有のかけがえのない生物であり、次の世代に引き継いでいかなければならないすばらしい自然資産です。 イヌワシを保護管理し自然環境のバランスを守っていくことは、私たち国民の責務だと思います。

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保護の取り組み

【1】AKAYAプロジェクト(林野庁・関東森林管理局・日本自然保護協会)

本プロジェクトは、群馬県みなかみ町を中心とした新潟県との県境付近に広がる国有林を対象に、林野庁・関東森林管理局・日本自然保護協会が、地元の協議会と共同で、生物多様性の復元と持続的な地域づくりを進める取り組みです。

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該当エリアは通称「赤谷の森」と呼ばれ、イヌワシやツキノワグマなど様々な生きもののたちが生息しており、日本イヌワシ研究会は猛禽類に関するワーキンググループに参画、主にイヌワシの調査活動に協力しています。

参考:AKAYAプロジェクト

過去の取り組み例

【2】保護増殖基本計画(1994年 環境省)

1994年、環境省がイヌワシ保護増殖基本計画策定を行い、 日本イヌワシ研究会が環境省に対して具体的な保護施策を提言しました。 そして、1995年に環境省はイヌワシをはじめとする希少野生動植物保護増殖事業をスタートさせました。 イヌワシに関するその主な事業は次のとおりです。

  • 繁殖阻害要因の現状とその分析
  • 巣の点検および補修
  • 死亡原因調査と残留環境汚染物質の実態調査
  • ヒナの移入事業(里子作戦)

これらの事業は、環境省から日本鳥類保護連盟に委託され、2002年度以降は、日本イヌワシ研究会のメンバーが個人の判断でワーキンググループに参画しています。