日本イヌワシ研究会設立30周年にあたり

日本イヌワシ研究会第2代会長 浅川 千佳夫

私がイヌワシに興味を持ったきっかけは、野鳥の生息調査時に偶然近い距離で、飛んでいるのに出会った体験だ。

その頃は野鳥に興味を持つ人たちでもイヌワシに関心をいだく人は、少なくとも私のまわりにはいなかった。おそらく身近では見られない種という思い込みがあったためと思われる。そのため1人で観察を始めたが、重田芳夫さんの「東中国山地のイヌワシ」(1974年3月)を入手し、手紙で教えを請うた。その後「日本イヌワシ研究会」に所属することで、さらに多くのことを学んだ。

ニホンイヌワシの減少は今や危機的な状況といえる。繁殖ペア数が減り、巣立つ幼鳥の数は増えることがない。以下、ニホンイヌワシと日本イヌワシ研究会の今後について触れようと思う。

日本イヌワシ研究会の設立から30年を経たが、研究対象としているニホンイヌワシについて知りえていないことは、まだ多く残されている。野外での観察に苦労はつきものだが、ニホンイヌワシが森林性の生き物であることも大きな理由である。特に非繁殖期の行動や若鳥の行動はとらえにくく、未知の部分となっており、それだけに関心も大きい。飼育下では分からないだけに、その解明は我々の仕事である。

一方、こうした未解決の課題と共に別の悩みがある。ニホンイヌワシに興味を持つ人が増えていることだ。その多くは撮影と観察が主であるにもかかわらず、知り得た情報を研究や保全に活かそうとしない人たちだ。こうした人たちの協力によって、未知の生息地の解明や生息地保全に役立つ可能性もある。環境アセスメントを必要とした開発行為が、日本各地で行なわれた時期に、イヌワシの存在が浮き彫りにされて社会現象のように猛禽類調査が行なわれた「成果」として、イヌワシに興味を示す人たちが増えたとも思える。その意味で、開発はニホンイヌワシと日本イヌワシ研究会に対し大きな影響を与えたと考えている。繁殖ペアの減少している状況下で、我々を含め観察者数が増えることは調査圧という観点からも良いとは思えない。環境アセスメント調査などで得られた調査結果を研究と保全に活かすことは一つの方法かもしれないし、調査方法の改善も検討すべき課題であると考える。

Aquila chrysaetos No.23・24 掲載