映像記録者からみた日本イヌワシ研究会の30年

映画監督 岩崎雅典(群像舎)

邂逅

イヌワシとの出会いは阿部明士さん(日本イヌワシ研究会初代会長)との出会いから始まった。取材で阿部さんに兵庫県のとあるイヌワシ生息地に案内された時のことだった。

営巣地の山麓で待機。この日はもう現れないかと諦めかけていた矢先だった。遠くの山の端にポツンと黒い影が出現。それがみるみるうちに近づき頭上を二度三度と旋回。何故か双眼鏡を握る手がぶるぶる震え、金縛り状態。初めて体験するもの凄い威圧感。阿部さんは「もう、帰ろう」とひとこと言っただけ。「見回りに来たのだ」とも・・・。強烈なイヌワシとの遭遇。この体験が後々までイヌワシに拘り続ける決定的要因だった。

“イヌワシ”の番組づくり

当時、私がかかわっていたテレビ番組は、新日鉄アワー「生きものばんざい」シリーズ(製作:岩波映画、毎日放送、1970~1979年)。フリーのディレクターだった私は、最初難色を示していた阿部さんをようやく口説き撮影に入った。泊まった宿が何と「イヌワシ旅館」。その後山崎亨さん率いる滋賀グループを紹介され、次第にイヌワシにのめりこんでいくことになる。私だけでなく映像記録者であるカメラマンの加藤孝(沖縄移住により退会)と沢田喬も同じ思いだった。イヌワシの存在はまだまだ幻であり、未知なる生きものの時代だった。沢田喬は尊敬の念を込め“あの人”と呼んでいた。

結局、このシリーズで4本の番組を作った。第一話「猛鳥イヌワシ断崖の城」、第二話「翔べ!イヌワシの若者」、第三話「イヌワシ追跡52時間」、第四話「危機イヌワシ親子の砦」。日本イヌワシ研究会が発足したのが1981年。まさにこれらの取材で出合った人々との厚い交流から生まれた草創期の記録映像である。

会員としてのイヌワシ生態記録映像

研究会の会員になったものの、加藤、沢田、それに私はイヌワシのいない東京在住。武器(カメラ機材)は持っているものの対象は遠い。出来ることといえば映像記録しかない。おのずと滋賀グループを頼りにするほかなかった。

自主制作の開始である。資金の目処は立っていなかった。振り返るに若気の至りというほかない。とりわけ沢田君の入れ込みが凄かった。ミノルタの500ミリ望遠ズームレンズを自費で買い込んだ。当時は16mmフイルムでの撮影。記録は7年間に及んだ。

こうして完成したのが記録映画「イヌワシ風の砦」(16mm・35mm/カラー/70分/1991年)だった。巣作りと交尾、抱卵と育雛、イヌワシの兄弟間闘争、巣立ち、親子三羽のハンティング行動、そして狩り。目指したイヌワシの生態をあらまし撮れたと思った。もちろん会員たちの厚い情熱と多大な協力なくしては生まれなかった作品だった。

“ワシ研”の転機となった記録映像

次に取り組んだのは、㈶日本自然保護協会の依頼で始まった秋田駒ケ岳山麓と田沢湖周辺を生息域にするイヌワシペアの調査記録である(1992~1994年)。

当時この地域ですすんでいた大型リゾート開発計画。それを阻止しようとする調査を“ワシ研”が取り組むことになる。“ワシ研”としの始めての試み。調査は三年に及んだ。

映像記録者としてはこの状況を記録撮影し、後世に残すべきと何の躊躇もなく半ば強引にカメラを現場に持ち込んだ(と記憶している)。

30代、40代の若い(?)会員たちのハツラツとした熱気は激しく、調査後の温泉三昧(乳頭温泉郷)とお酒の日々が懐かしい。

この記録は「森の国のイヌワシ」(協力:日本イヌワシ研究会、制作協力:群像舎、制作・㈶日本自然保護協会、ビデオ/カラー/25分/1994年)となり完成する。

後に、この時の㈶日本自然保護協会による調査報告書が開発の縮小化を促すことになる。画期的な出来事だった。

提案

「生きものばんざい」シリーズに始まったイヌワシの記録映像。「イヌワシ風の砦」「森の国のイヌワシ」と続いたがその後途切れている。筆者の力のなさと高齢によることは明々だ。しかしここで、ワシ研30年の歴史を振りかえり記録映像者として一つ提案したい。「日本イヌワシ研究会・映像アーカイブ」(仮称)の設立である。

活字媒体の研究会機関紙「Aquila chrysaetos」は21号を数える。これは“ワシ研30年”の貴重な記録であり財産だ。同じように映像記録も貴重な資料となることを確信するからである。

最近はカメラ機器も多様化している。会員それぞれも動画、静止画に関わらず秘蔵の映像をお持ちのはずだ。まず、このような映像の収集から始めたらどうだろうか。私の知る限り、個人的に資料映像を多く所有しているのは新谷保徳さんだ。今回製作の日本イヌワシ研究会映像30年史でお世話になり判明した。具体的な有り様は会員の皆さんで知恵を出しあって考えてほしい。

30年の過去を振り返った映像記録者としての切なる願いである。

Aquila chrysaetos No.23・24 掲載